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    Posts categorized "Books"

    Sep 24, 2007

    木を切れば木っ端は飛ぶ

    チェチェン やめられない戦争
    アンナ・ポリトコフスカヤ 三浦 みどり
    NHK出版 (2004/08/25)
    売り上げランキング: 68031

    本書は、2006年の10月に自宅アパートのエレベーターで何者かに射殺されたロシア人ジャーナリスト、アンナ・ポリトコフスカヤの著書。彼女の殺害に続いて、同年11月、同じくプーチン政権を批判する元FSB(ロシア連邦保安庁:旧ソ連のKGBの後継組織)のアレクサンドル・リトビネンコの放射性物質ポロニウム210により、亡命先のイギリス国内で何者かによって殺害される事件が起きた。ロシアの反体制ジャーナリスト・活動家の相次ぐ不可解な死は、当初より彼らの殺害の背景に政治的な意図が働いていると推測され、FSBの関与を疑わせる関係者からの証言が取り上げられるなど、西側では大きく報道されることとなった。

    彼女がこの本を通じて伝えたかったこと。紛争の現場、戦時下における一般市民の生活。武装勢力の掃討作戦の名の下に、繰り返される略奪、強姦、誘拐、殺人。なぜ、このような紛争がおきたのか、また何故やめられないのか、ソ連崩壊以降のロシア連邦において強権的な統治手法をとるプーチン政権と軍部、新興財閥の蜜月。実態から大幅に誇張された武装勢力側の能力、水増しされた戦果によって評価を上げ、ロシアの英雄として昇進していく軍関係者、中央からの紛争地域再建のための予算を横領する、共和国政府の官僚。紛争地域の石油資源を巡る非正規ビジネスの利益、それらを見逃す便宜を図ることによって賄賂をもらう軍部、共和国政府の官僚。つまり、紛争状態の継続が権力者に連なる関係者すべての利益につながっていること、連邦側の関与者には紛争を終わらせる動機が不在であること。

    Link: チェチェン共和国 - Wikipedia.
    Link: 第一次チェチェン紛争 - Wikipedia.
    Link: 第二次チェチェン紛争 - Wikipedia.

    ロシア政府の対外的な言説では、国際的なテロリズムに対する戦いの一環として位置づけられているチェチェン紛争。イスラム原理主義者の関与が仄めかされるだけで、西側もそれを無批判に受け入れられてしまう。背景として、近年の原油高を背景に資源供給国としてその発言力を強めるプーチン政権に連邦の内政問題であるチェチェン紛争において対峙するよりも、石油資源の供給源の多様化と安定という自らの国益のために、多少のことには目をつぶってしまえという利害の判断があることは間違いない。もちろん、北方領土問題というアキレス腱の他に、サハリン・ルートの石油・天然ガスの資源問題がある、日本も無関係ではない。

    平時であれば、そのような冷静さをもって受け止められる世論も、大規模なテロ事件の後には、テロリストに対する憎悪が勝って、対抗・予防措置の強化に流されていく。そのような場面で、どこまでがテロに対する戦いの範囲なのかを見極めるのは非常に難しい。主要なメディアが半ば強引に国有化され大量のプロパガンダが流され、有効な野党勢力を持たないロシアにおいては、市民に正常な判断を求めること自体が不可能に近い。西側においても、イラク戦争の際の、大量破壊兵器に関する情報操作を見ても施政者側の意図が介在した場合は、ジャーナリズムがその真相を明らかに出来なければ、一般市民は施政者を管理・監督する方途を持たないことになる。

    大義の前に、犠牲を強いる、「木を切れば木っ端は飛ぶ」的な施政者の演説がなされたら要注意だ。施政者の独善を許した場合、情報操作を主たる手段とする点において、テロリズムとカウンター・テロリズムの取る戦術と、その結果として市民にもたらされる悲劇は驚くほど似ていることに気付くのは、事が始まってから随分と後のタイミングとなって、取り返しのつかないことになっているかもしれない。

    皮肉なことに、彼女の自身の死によってジャーナリストとしての注目度は高まり、その著作の内容も多くの人に読まれるようになった。しかし、それでも彼女は まだ幸運なのかもしれない。驚くべきことに、ロシアでは1999年から2006年までの間に126名のジャーナリストが死亡、もしくは行方不明になってい るという(wikipedia)。 今日現在では、アンナ・ポリトコフスカヤ殺害の犯人とされる逮捕者は出ているものの、その真相は解明されていない。「ロシアン・ダイアリー」の解説の中で NHK解説委員の田中和夫(元モスクワ支局長)は、プーチン政権下でポトリコフスカヤ以前に12人のジャーナリストが命を奪われているが、いずれも未解決 であると記述している。

    テロリストが「悪」であること、テロリストに対する戦いに反対することを「悪」とすることは違う。冷静に世の中で起きていることを理解することが、正しい判断のためには必要だ。

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    Jan 03, 2007

    ロジックとフレームワーク

    ナショナリズムという迷宮―ラスプーチンかく語りき
    佐藤 優 魚住 昭
    朝日新聞社
    売り上げランキング: 1464

    この年末年始の休暇は、例年通り東京の自宅でゆっくりとすごしました。何冊かの本を読み進めたのですが、その中で一番楽しめたのがこの一冊。佐藤優 a.k.a.外務省のラスプーチンとジャーナリストの魚住昭の対談をまとめた本です。一般的に、対談本はなんとなく散漫で、議論にも深みが足りないものが多いのですが、聞き手に回った魚住氏や編集者の力量なのか、今回は、この形式が奉功してリズム良く話題が進んでいきます。

    前書きの中で、佐藤氏は今回の対談のフレームワークについて以下のように記しています。

    私たちはちょっと切り口を変えて、生きた現実を、アカデミズムの狭い専門家以外ではあまり知られていないテキストや現在はほとんど見向きされなくなった死んだテキストを通じて解釈するという手法を意図的にとった。ヘーゲルやマルクスのような十九世紀の大思想家から、アーネスト・ゲルナー、ベネディクト・アンダーソンをはじめとする現代思想家、更に大川周明、今中次麿のような、ほぼ忘れられている二十世紀日本の優れた、もしくは蓑田胸喜のようにとても優れているとは思えないが強い影響力を持った思想家も墓の中から呼び出してきた。この人たちにも日本の現状について語ってもらったのである。

    この本で展開される論理を分かりやすくするために、氏らが持ち込んだのは“死んだテキストたち。現代においては“死んだ”ものを利用して、今日的な状況を読み解いていく試みは、展開される論理の相対的なポジションを明確にする意味において非常に有効に作用しています。また、必要であるならば、星飛雄馬やサザエさんまでを登場させる佐藤氏の論は、まさに技のデパート。とても明快です。

    自分の今日のコンディションを確かめたければ、鏡に向かえばよい。
    自己を相対化するの試みの中で理解は進んでいく。考現学のテキストとして、非常に興味深い本でした。

    Jun 04, 2006

    Mosquito or Mammoth

    ニューヨーク流たった5人の「大きな会社」―我々の仕事の仕方・考え方
    神谷 秀樹
    亜紀書房 (2001/05)
    売り上げランキング: 70,551

    公私にわたる友人かつ、 敏腕エグゼクティブ・ハンターのYKさんのお勧め本。

    日本人の一個人が設立した会社としてはじめて、米国証券取引委員会に登録された投資銀行"Roberts Mitani"のファウンダーである神谷秀樹さんの本です。自身の住友銀行~ゴールドマン・サックス~独立企業にいたるキャリア、なぜ米国で小さな規模の投資銀行を作ったのかを振り返りながら、自分達の仕事に対する方法論・考え方について語っています。

    マンモス金融機関でのキャリアを卒業して、自分自身で自らを雇う(Self  Employed)ために会社を設立。同様の考え方を持つ経験豊富な仲間達と、たとえば弁護士事務所のようなパートナー制に近い形での資本政策と報酬制度を会社に持ち込んだ。四半期や半期といった会計期間に拘泥せずに、長期的なビジネスの発展を可能とする仕組みによって、顧客とリスクを分かちあうビジネススタイルを実現させた。そもそも仕事に対する評価の軸や報酬のモデルが異なるので、いたずらにマンモスと競争する必要もない。

    これらの仕組みの違いが、社内の仕事の優先順位の判断や、顧客にとっても長期的に意味のあるサービスを提供可能にする。その上で、領域を「医療、金融サービス、教育」の3領域に絞込み専門性を研ぎ澄ませて行くことによって、スケールを超え、マーケットにおける存在感は独自のものとなる。

    特にITによって情報の流れ、仕事の進め方も大きく変わり、医療や教育といった規制業種のなかにもビジネスチャンスは豊富に存在する。ベンチャービジネス に対する氏の思いは、単体の会社のみならず当該産業の将来をも見ているようだ。自ら一つ一つイノベーションの積み重ねをサポートする先には、社会変革すら見 据えているのかもしれない。

    何をするのか(What)と同じくらい、どのように(How)やるのかという事も重要、でも何のためにやるのかが一番大事。

    自らの日常を振り返る意味でも、今一度問いかけてみたい。
    その仕事は社会を変えるのかと。

    Mar 05, 2006

    ムネオ疑惑とライブドア事件をつなぐもの

    国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて
    佐藤 優
    新潮社 (2005/03/26)
    売り上げランキング: 733

    昨年の話題の書。

    著者は、2002年5月に東京地検特捜部に背任容疑で逮捕され、東京拘置所に収監された、外務省国際分析第一課の元主任分析官。2005年2月に第一審判決(懲役2年6ヶ月、執行猶予4年)を受け、現在控訴中。いわゆるムネオ疑惑のもう一人の中心人物、外務省のラスプーチンと呼ばれた佐藤優氏(Wikipedia)である。

    現場で働いていた外交官として、日露平和条約に締結に向けた北方領土問題の交渉経緯、日本の戦略を背景から丁寧に解説しながら、情報の仕事に携わっていたプロフェッショナルらしく、取調べの際の検察官とのやり取りや、拘置所内の様子などを、驚異的な精緻さで再現していく。読み物としても非常に完成度が高く、読者を引き込んでいくための書物としての構成も完璧で、夜更かしして一気に読んでしまった。東京地検特捜部との対峙、外務省の官僚機構と政治家の複雑な駆け引きの中で、カフカ的な不条理を描くテーマでありながら何故か読後感は爽やかだ。

    当時を振り返れば、マスコミ報道や世論は、小泉内閣の産みの親の一人で絶大な人気を誇った、田中真紀子外務大臣 vs. 伏魔殿:外務省+鈴木宗男氏という対決の構図の中で、地検特捜部の完全なるワン・サイドゲームであったと記憶しているし、僕自身もその枠組みの中で物事を理解していた。マスコミや世論の熱狂がさめた今、改めてこの本を読みながら一方の当事者の主張や見解を目にすると、そのころの理解の前提となる、報道や世論の流れそのものにある種の疑念を感じざるを得ない。

    本書では、検察官の言葉として「国策捜査は、時代にけじめをつけるために必要なんです」と記している。ムネオ的な外交手法にけじめをつける事は、何故必要だったのか?

    著者の分析は、内政においてはケインズ型公平配分路線からハイエク型傾斜配分路線への転換、外交における地政学的国際協調主義から排外的ナショナリズムへの転換という構図をその背景に読み取っている。小さな政府、官から民への権限委譲、規制緩和など、その後の小泉内閣における改革のキーワードは、個人の能力や創意工夫を妨げない事を理想としながら、ある意味で経済的な格差を容認し、経済的に強いものがもっと強くなることによって社会が豊かになると考えるモデルといえる。

    国民の支持・ポピュリズムを唯一の権力基盤とする小泉内閣において、「地方の切捨て」「金持ち優遇の傾斜配分」とストレートにその政策転換をアピールすることはできないが、旧弊の利権誘導型のムネオ的政治家のモデルを作り上げ「腐敗・汚職政治と断絶する」とうたえば、国民の支持を失わずして、政策の路線転換を可能とする道が開ける。

    さらに、鈴木氏と著者は、北方領土問題について、「四島一括返還」の国是に反する「二島返還」、あるいは「二島先行返還」という妥協的姿勢を示したとして非難される。これらは著者の主張によれば、完全なる事実誤認、交渉の過程の一部分のみを切り取って、背景にある意図や目的から切り離した場合の解釈に過ぎないとされている。これらのムネオ・バッシングの過程で、いびつに高揚した排外的なナショナリズムが、その後の日本の外交政策(特に日朝国交正常化交渉)に与えた影響を著者は危惧している。

    つまり、内政と外交、二つの路線転換の間で、格好のターゲットとなったのが鈴木宗男氏と著者達だったようだ。

    昨今の、ライブドア事件の報道を見ても明らかなように、捜査の初期段階から連日各紙にリークされる取調べの状況や、新事実の数々は検察側の情報を中心に組み立てられるため、検察のマスコミの恣意的な利用の意図を明らかに感じさせるのも確かだ。マスコミを利用して事件に対する関心を喚起し、検察に対する世論の支持を形成するそのやり方は、まさにムネオ疑惑当時の国策捜査の特徴に合致するようだ。

    東京地検特捜部は、今回どんな「時代のけじめ」をつけたいのか。ニュースの裏側にある政策の路線転換を理解するためには、小泉内閣の今までの内政施策を振り返りながら検証していく必要がある。ポピュリズムを唯一の権力基盤とする宰相を持ち、日々ワイドショー化する政治の世界を鑑みるに、ニュースの受け手側にも、それらを読み解くリテラシーが必要なことは言うまでも無い。

    最後に、本書で触れられている事象によって、結果的に不利益をうける可能性のある政治家や官僚などがほとんど現役で残っている現時点で、これらを出版した出版社や編集者の存在と、何よりも事件の当事者でありながら、抑えた筆致で淡々と約400ページの記述を成し遂げた著者の胆力には尊敬の念を抱く。日本の出版界も捨てたもんじゃないですな、と思わせる1冊。

    Link: ガ島通信:「国家の罠」佐藤優.
    Link: My Life Between Silicon Valley and Japan - 佐藤優「国家の罠」.
    Link: asahi.com: 国家の罠 書評(青木昌彦).
    Link: YOMIURI ONLINE: 国家の罠 書評 (米原万里).

    Jan 28, 2006

    Steve Jobs、魔法の王国へ

    なんだか、ワクワクします。ディズニーがピクサーを株式交換で買収することによって、ジョブスはディズニーの個人最大株主となると同時に、取締役会メンバーになるそうです。

    前任のCEOマイケル・アイズナーとジョブスの確執については、比較的、最近のキャリアについても仔細に記述されている「スティーブ・ジョブズ-偶像復活」の中で、独立した一章(第12章:巨人の衝突)が割かれるほどのドラマチックな泥仕合。アイズナーは結局ピクサーとの契約問題のハンドリングをミスった結果もあって、予定より1年早くCEOの座を追われることになりました。現CEOのボブ・アイガーになって以降、急速に進展した両社の関係修復の帰結が、この買収なのかもしれません。

    Link: 米ディズニーが米ピクサーを約74億ドルで買収へ、ジョブズ氏はディズニー取締役に.

     米ウォルト・ディズニーは2006年1月24日に、コンピュータ・アニメーション制作の米ピクサーを買収することで両社が合意に達したと発表した。取引は夏までに完了する予定で、株式交換方式で行う。

     合意のもと、ディズニーはピクサーの株式1株につき自社の株式2.3株を発行する。買収総額は74億ドルにのぼる見込み。

     ピクサーの代表作には、「Toy Story(トイ・ストーリー)」「Toy Story 2(トイ・ストーリー2)」「A Bug's Life(バグズ・ライフ)」「Monsters, Inc(モスターズ・インク)」「Finding Nemo(ファインディング・ニモ)」「The Incredibles(Mr.インクレディブル)」などがある。

     「ピクサーの創造力と技術力に優れたリソースと、ディズニーが抱える世界規模の家庭向けエンターテインメントやテーマ・パークなどのフランチャイズを組み合わせることで、ディズニーの全事業にわたって将来の成長を促進できるクリエイティブな産物と技術革新が登場する可能性が広がる」(ディズニー)


    蜜月は、ディズニーとピクサーの関係にとどまらず、アップルにとってもディズニーはすでに重要なパートナーとなっています。2005年10月にアップルがビデオ再生に対応したiPodとiTunes 6を発表し、ビデオ配信事業に進出た際に、Disneyは傘下ABCの人気番組、「Desperate Housewives」や「Lost」などをiTunes Music Storeに供給を約束。いち早く協力的な姿勢を明らかにして、その後の業界動向を決定付けています。

    コンテンツ産業の巨人の中枢に入り込んだスティーブ・ジョブス。アップル、ピクサー、そしてディズニーへ。新しい伝記がもう一冊必要になるくらい、面白いことに取り組んでくれると期待したいです。一人の消費者としては、ディズニーがすでに参入を表明しているMVNOサービスあたりを入り口にした、携帯電話やリビングに置かれる端末とWebサービスを上手に融合したエンターテインメント・コンテンツ・サービスの開発が、ジョブスのリーダーシップにより一気に加速するなどという展開に発展してくれると興味深いと思います。


    スティーブ・ジョブズ-偶像復活
    ジェフリー・S・ヤング ウィリアム・L・サイモン 井口 耕二
    東洋経済新報社 (2005/11/05)

    Aug 10, 2005

    王妃の離婚

    僕の身の回りでも夏休みを取る方々が増えてきている今日この頃ですが、帰省や行楽地への移動中に手ごろなボリュームでお勧めの本を一冊ご紹介。本作は、15世紀のフランス王ルイ12世が王妃ジャンヌに対して起こした離婚訴訟の法廷を舞台に、愛と勇気と正義と誇りを取り戻す一人の弁護士の物語。シンプルで力強いストーリーと、スピーディーなドラマ展開は、読み始めたら、きっと止まることが出来なくなると思います。

    作者の佐藤賢一氏は、 1968年山形県鶴岡市生まれ。東北大学大学院でヨーロッパの中世史を専攻されたとのこと。本作では、99年に第121回 直木賞を受賞されています。僕自身は、氏の作品の大ファンで「双頭の鷲」や、「二人のガスコン」なども大好きなのですが、ちょっとボリュームが大きいかもしれません。まずは本作をお読みになられて、気に入ったら、是非通読してみてください。

    では、皆さん良い夏休みを!(僕は、まだ働きます...)

    王妃の離婚
    王妃の離婚
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    佐藤 賢一
    集英社 (2002/05)
    売り上げランキング: 66,374

    Sep 11, 2004

    Manhattan Unfurled

    cover 事件前の美しいマンハッタンを水上から1周、線画で淡々と描写した本です。目に見える景色だけではなく、何かが変質してしまった世界に対して、意図されたノスタルジーを。  作家のポール・オースターは、その日の覚書として短いエッセーを書いています。通常とは異なる、文末を投げ出すような文体から、作者の憤りを感じます。 「トゥルー・ストーリーズ」から引用しておきます。

     こうしたことが起きうることを、私たちはみんな知っていた。その可能性を何年も前から話していた。でも悲劇が実際に起きてみると、それは誰が想像していたよりももっとずっと悲惨だ。アメリカ本土が最後に攻撃されたのは、1812年である。今日起きたことはまさに前代未聞だ。この襲撃から生じる波紋は、さぞ恐ろしいものになるにちがいない。さらなる暴力、さらなる死、すべての人にとってのさらなる苦痛。
     こうして二十一世紀がはじまる。

     今日、友人夫妻に女の子が生まれた。世界中で命の尊さ、家族の大切さを考えるこの日に誕生したキミは、なかなか運がいい。健やかに成長することを祈ってます。おめでとう!

    Sep 03, 2004

    トゥルー・ストーリーズ

    tsbook ポール・オースターのエッセイ集。オムニバス形式の編集作品です。先日の"マドレーヌ"のエントリーを書いている時にも、この作品を読んでいたのですが、偶然とは言え、今の心理状態がこの種のものを欲してるんですかね...? Amazon.co.jpのレビュー

     対応する原書が存在しない、貴重なポール・オースター・エッセイ集。 日本で出版される本書のために、オースター自らが目次を組んだという。邦訳はもちろん、「翻訳の神様」柴田元幸。まさに著者と訳者の信頼関係が実現せしめた、無二の特別編集。

     "事実は小説よりも奇なり" と実感するエピソードが豊富に描かれています。中盤に採録された作者の極貧生活時代についての作品を読むと、巡り合わせの不思議さ、偶然の積み重ねによる現実の不確実性に対する"諦念"をベースに、物質主義に対する嫌悪感を持つにいたった経緯がよく理解できます。何かを諦めることによって、反対に得られるモノがある。なんか、哲学的な問いを自己の内面に投げ掛けたくなるような作品です。

    Jul 03, 2004

    F1最新マシンの科学

    cover 今週末はフランスGPが行われるF1。佐藤琢磨の日本人としては14年ぶりの表彰台ゲットで、注目度も俄然高まっていますが、僕のような経験値の低いファンが、ベテランのファンとお話をする際の共通言語のお勉強に、とても参考になるのがこの本です。2000年の出版なので最新のレギュレーションには対応していませんが、それでも充分に役に立ってテレビ中継の解説もきっちり理解できるようになるはずです。

     以前、広告代理店に勤めていた際に、F3000(今のフォーミュラ・ニッポンですね)のチームスポンサーをやってた広告主を担当していた関係で、富士スピードウェイ美祢サーキットスポーツランドSUGOには行った事があって、フォーミュラカーのレースを間近で観る機会があったのですが、鈴鹿サーキットだけ、何故か行った事が無いんです。しかも、F1を生で見た事ない...。

     今年は、何か理由をつけて(つかなさそうなんで、無理やり休んででも)日本グランプリを見に行きたいなぁ、などと企みごとをしております。F1は、ネットでも速報関係がとても充実していて、オフィシャルサイトのライブタイミングをはじめとして、関係するサイトをチェックしながらテレビ中継を観ると面白さ倍増ということに最近気がついてハマッてます。

    The Official Formula 1 Website
    Cyber F1 GP Photographic Web Site By KENSAWA
    片山右京 F1 Blog
    takumasato.com
    Honda | F1 | 佐藤琢磨のライフストーリー

    May 14, 2004

    モグラびと

    cover 秋庭俊氏の「帝都東京・隠された地下網の秘密」を読んで、それなりに地下マニアとなってしまいました。今回の「モグラびと ニューヨーク地下生活者たち」は、ニューヨークの地下に張り巡らされた、トンネル内に生活するホームレスの実態を描いた、社会派ドキュメンタリー。テーマはトンネルの存在そのものではなくて、その中で暮らす人間についてなので、読後感はスーパー・ヘビーです。

     わずかなドラッグや一本のタバコのために簡単に殺人が起こる一方で、ケガをした誰かがトンネルに迷い込むと毛布を渡して回復までの面倒を見たりもする。暴力に満ちているが、共同体としての優しさもある。場当たり的で脈絡がないその行動様式は、人が地上の生活で求められるその社会性ゆえに、日常的に抑圧し覆い隠している人間性の本質を表しているようだ。人間がその本能をむき出しに、より動物らしく暮らす環境に一度でも親しむと、もう後戻りは難しいようだ。

     女性記者の文字通りの潜入取材は、事前に予想されていた危険が具体的な形を取る事によって唐突に終わる。この本は93年に出版され、その後映画化もされたようだ。辣腕で知られるジュリアーニ前NY市長は、在任中に警察官の数を約1万人増員し、1993年から1997年の4年間で殺人、強盗、傷害、窃盗の件数を半減させ治安回復に努めたという。施政者側のアピールする実績とは別に、地上社会との交流がなく、摩擦の少ない地下のコミュニティーは表立って語られる事がほとんどないようだ。出版から10年が経って、地下生活者のコミュニティーの今ははたしてどのように...。

    In Search of the Mole People

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    • Chaka Kahn - Foolish Fool

      Foolish Fool
      Chaka Kahn: Funk This

      チャカ・カーンのアルバム、久しぶりのオリジナルアルバムのリリースのようですが、ハイ・トーン・ボーカルは衰え知らずで迫力満点。ジャム&ルイスがプロデュースを担当してますが、70'sのソウル・ファンクの雰囲気が色濃くて、彼女にとっては原点回帰っぽい作風か。プリンス“Sign 'O' The Times”、ジミ・ヘンドリックス“Castles Made Of Sand”など、カバー曲もよくフィットしております。

    • Thievery Corporation -

      Thievery Corporation: Versions
      Washington DCをベースに活躍するベテランDJユニット Thievery Corpのリミックス集、2006年リリース。Sultan Khan、The Doors からAstrud Gilberto を経て Sarah McLachlan まで、いったいどんな仕事選びの基準ですかってくらい、幅広い音楽を彼ら流儀で Dub で Downtempo で Chillout でありつつ、エキサイティングなTrip-Hop に換骨奪胎する逞しさは実力の賜物か。こっち方面としては久々のお気に入り。

    • MIKA - Grace Kelly

      Grace Kelly
      MIKA: Life in Cartoon Motion

      レバノン出身のロンドンをベースに活躍する男性シンガーMIKAのデビューアルバム。“Grace Kelly”は英国を中心に欧州各国ではかなり大ヒットした模様。音域の広さも、オペラの経験があったりするバックグラウンドも含めて、確かにフレディの再来を感じさせるのですが、アルバムで表現されているポップセンスの引き出しの豊かさは、単なるフォロワーとは異なる可能性を感じます。最近のUKポップシーンは、タレントぞろいで豊作ですね。

    • My Chemical Romance - Welcome To The Black Parade

      Welcome To The Black Parade
      My Chemical Romance: The Black Parade

      なんとなくティーン向けのバンドっぽいチャラチャラした印象があったので、何気にスルーしていたMy Chemiですが、この1枚は往年のロック名盤のようにキッチリとしたコンセプトアルバムです。雰囲気的にはQUEENがZiggy Stardustを演奏した感じなんていったら褒めすぎかしら。いずれにしろ子供たちだけのお楽しみにしておくのはもったいない感じ。
      歌詞はけっこうドスンと暗いので、ドライブ向きな雰囲気では無いですけど、大音量で楽しむとロックな気分が満喫できますぜ。

    • 4hero - Morning Child

      Morning Child
      4hero: Play with the changes

      UKクラブシーンのベテラン4heroのなんと6年ぶりの新作。長いブランクを全く感じさせないのは、それぞれのプロジェクトで一線で活躍を続けていたからかも。変わらない4hero節はホントに素晴らしいく、豪華で多彩なゲストボーカル陣、流麗なストリングス・アレンジ、ジャズっぽくシンコペーションするサイドシンバルなど、華やかで盛り上がっちゃう要素が満載です。

    Books

    • 高山 文彦: エレクトラ―中上健次の生涯

      高山 文彦: エレクトラ―中上健次の生涯
      中上健次の評伝。作家と編集者の関係性を軸にしながら、作家自身の複雑な背景と作品とのコンテキストを明らかにしていく。10代の頃に、ただただ圧倒されて読んだ中上作品の背景を知り、改めて「岬」や「枯木灘」などを読み返してみると、そのコンテンツとしての印象も、より深く重いものになったと思う。

    • ジョン・アーヴィング: また会う日まで 上

      ジョン・アーヴィング: また会う日まで 上
      いや、長ーい。ある種の忍耐力を試されるような長さ。幼少期~少年期~青年期のスピード感の変化は、実際の人の記憶とシンクロしているような、紙幅の使い方。実は、計算された演出のうちの一つなんだよね、ということが読後にわかります。やるな老作家。だからこそ、下巻まで頑張って通読しましょうぜ。個人的には、アーヴィングの本の中では、ガープ以降で最も好き。なんか、真実の多面性と親子関係の奥深さについて改めて考えさせられます。よって、子供はある程度大人になるまで読んじゃダメ、絶対。

    • デイヴィット ハルバースタム: ファイアハウス

      デイヴィット ハルバースタム: ファイアハウス
      September 11で犠牲になった消防士のお話。通俗的なお涙頂戴のお話にならないのは、デイヴィット ハルバースタムの“事実をして語らしむ”手法があるから。日常の何の気ないエピソードの連続から、特殊な共同体としてのNYの消防署の生活の様が語られます。そこにある、温かな日常、家族や仲間との親しい交わりは、職業としてチームとしてなんら飾りや偽りのない関係性を求められていた彼らとしては当然あるべき姿だったのかもしれません。
      彼らの多くがアイルランド系のカトリックという背景については、そもそも、この本を読んでみるきっかけとなった映画“Ladder 49”にも重要な伏線として出てきますが、元々が移民からなる米国の多層的な社会を理解するには、正直もう少し時間がかかりそうです。

    • 福岡 伸一: 生物と無生物のあいだ

      福岡 伸一: 生物と無生物のあいだ
      著者の福岡伸一氏は分子生物学者。ワトソンとクリックによるDNAの二重らせん構造の発見以来、分子生物学の進化はめまぐるしい。それらの流れを追体験しながら動的平衡論にたどり着く頃には、生命の本質に対する謎解きに自身も参加しているような気分になる。
      海外の研究機関の研究者としての日常や、最先端の研究成果を巡る世界の研究者との競争を巡る心理もキッチリと描かれミステリー小説を読んでいるかのようです。生命と自然に対する畏敬の念が現れた、エピローグも素晴らしい。

    • 佐藤 賢一: 英仏百年戦争

      佐藤 賢一: 英仏百年戦争
      14世紀から15世紀にかけての英仏百年戦争は、二国間の争いというよりフランスの内戦としての意味合いで語るべきだ、という認識の土台に立って、黒太子エドワードやジャンヌ・ダルクなどの時代を語る。西洋歴史小説の名手が書き手ということもあって、ヨーロッパ史に詳しくない方でも楽しめる内容かと思われます。